情景279【夏の麦畑】

 目の前で陽光をはじく半袖シャツの白がまぶしい。

 小学生の従兄弟が、麦畑のそばに伸びた一本の畦道を駆け出した。近所の友達がそれに連れ立ち、そわそわと落ち着きのない様子で走り回っている。

「そんなに急がなくてもいいって」

「そっちの足が遅いんだよ」

 ——もう、口ばっかり達者になっていくなァ。

 麦畑の周りに吹く風は、日差しの熱と湿り気がまじりあってぬるかった。

「あっづ……」

 夏なんていつの間に来ていたのか。

 たまにはおじいちゃんたちのところに顔を出してくれと言われ、南から北へはるばる遠征。北の方は夏でも涼しいから、とかいう母の評判を聞いて避暑地を勝手に期待していたけど、夏は夏だった。畑が午前中から溜め込んでいだ熱は重くて暑い。しかも、日焼け止めを忘れてしまった。

 ふと右に視線をやれば、背丈が私の胸元くらいの麦畑の穂が、風に靡いて頭を垂れている。

 ——昨日より、ちょっとだけ黄色くなった?

 シャツの襟口で汗を拭いながら、無言でそう尋ねてみた。ひげの長い小麦がこちらを見つめ、揺れている。


 畦道を逸れて小坂を上り、ちょっと土の高いところに出れば、その麦畑を一望できた。緑と黄色のまじる穂波の上を光陰が渡っていく。麦畑は陽光を一面に受けてふわりと揺蕩っているように見えた。

 少年たちは穂のそばで虫を探している。

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