情景278【見慣れた景色。見慣れない景色】

 積み荷と一緒に後ろから車に乗り込んだ。八人乗りのミニバンは縦に長くて、前から乗るより後ろからがいいやと思うようになってしまっていた横着な自分。シートをよじ登って、そのまま後部座席に滑り込む。

 助手席に乗っていた母はこちらに振り返り、

「あんたはまたそんな横着して」

 と、呆れていた。

 ——乗れたからいいじゃん?

 なんて、悪びれることなく答えるのが常。


 自分と一緒に後ろに乗った荷物は、由布院で数日過ごすための荷物とお土産。父が車のエンジンを吹かし、ゆっくり動き出したと思ったらあっという間に県道に躍り出て気持ちよく走りはじめる。

 出発してしばらくは、遠出にワクワクして、窓の外をじっと眺めたりしょっちゅう母に話しかけたりしていた。

 でも、そう長続きはしないらしい。

 見慣れた道と遠くの山の並び。代わり映えのしない住宅街。いつものように風になびく田んぼの若い緑葉。通り掛かるスーパーの名前はもうとっくの昔に見飽きている。それでも遠出するという目的だけで最初はいつもより彩られて見えたものだったけれど、しばらくすると眠気が襲ってきた……。


 いつの間にか眠っていたらしい。

 目が覚めると、先程までとは違う雰囲気を感じ取った。体を起こして顔を上げ、窓の外に目をやる。

 見慣れない空の色。見慣れない山の並び。見慣れない住宅街。車の外はいつもとは違う風が吹いているような気がした。

 視界がやけに開けているような気がする。

「ここが由布院……」

 私が居眠りこいていたときもひたすら運転しつづていた父が、だらりとした声で付け加えた。

「まだ大分に入ったばかりだよ」

 あ、そうなん。

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