情景270【横並びの傘】

 長雨の時期に入って、曇り空の灰色が普段より濃くなった。糸のように細長い雨が淡々と降りしきる。傘布が細長い糸雨の群れを生地で弾いては跳ねる丸い雫に変えていた。もう梅雨か。

 ——会話、少し途切れたかな。

 ふたり、傘をさして学校の帰り道を歩いている。自分がなるべく話していようと思うタチだからか、お互い話のネタがなくなってふいに会話が途切れると、急に視界の湿りけに包まれた静けさが気になりだした。濡れたアスファルトをぱしゃぱしゃと踏む互いの足音。雨の音が耳を突く。

「雨。止まないねぇ」

「そーだなー……」

 お互い手探りな感じだ。

 それでも、こうしてふたりで帰っているところを友達に見られたら、カップルみたいなのと勘違いされてしまうんだろうか。向こうが偶然私の帰りに合流してきて、たまたま方向が一緒だから並んで帰る。今日でそんな流れが奇遇にも三日続いてしまっているという、明らかに仕組まれた偶然と暗黙の駆け引きの真っ最中なんですけど。

 ——もしかして隣のこいつは、私のことが好きなのかな。

 ちらりと横目で見る。彼の白い夏服の袖が、雨滴で少し濡れていた。私の傘の先端からはねた雫が降りかかったらしい。

 私の方が、背が低いからか。

 袖をちら見ながら会話の糸口を探している間、ふたりの傘が雨雫を弾いてぱつぱつと鳴っていた。その音が、私の鼓膜を柔らかく打つ。

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