情景299【窓の外は雨】
窓にはりつく雨雫の線。横一線、ナナメの線。透明なガラスの、向こう側についている線。それは、触れようとしても触れられないもの。
眺めるほどに雨の線は増えた。それでもと、指で窓の表面に触れれば、指の腹周りがふわっと白く曇る。離すと指紋の跡が残った。
窓ガラスの中にいる、おぼろげな半透明の自分と向かいあっている。うつろな顔をしていて、表情の細かい部分を窓が隠してくれていた。
ダークグレーの肩が張るジャケット。
襟の先がよれた白いブラウス。
艶のない黒髪の毛先。
視線を落とすと、足元には固い革のカバンとビニール傘。
もう駅についてしまう。
ついてしまったら、面接してくれる会社に早足で向かわなきゃ。電車を降りると、ホームの屋根を打つ雨音がパツパツと鳴って鼓膜をふれてくる。改札を抜けて傘を開いた。雨音はより近いところでパツパツと鳴っている。雨雫が傘の坂をくだって端から垂れて落ちていた。透明なビニールの向こうで、点と線で間断なく滴っている。
ビニールに指をくっつけても、雫は指につかない。
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