情景261【威勢よく登校】
朝、自転車で坂を駆け上がってそのまま校門をくぐり抜けるところまで行く。アスファルトの坂道は、陽光をきまぐれに反射してきらきらと眩しかった。たまに自転車のフレームも、光を帯びるように白い粒がちらついて見える。気にせずに勢いよく自転車を漕いで、校内の駐輪場に突っ込んだ。
背中越しに「あと三分だぞ!」と野太い声が飛んでくる。正門で目を光らせていた体育教師の野太い声だ。それもいつものこと。
ギリギリまで寝て、始業ギリギリを攻める登校。そんな朝のギラついた力と勢いは多分に一過性のもので、教室にたどり着くころには消え失せる。それからは、木の板を鉄で支える椅子にだらりと腰掛け、これまた木の板を鉄で支える机にどすっと肘をついて午前中を過ごしていた。ダラダラと授業を受ける。教師の解説が左の耳から入り、そのまま右へと抜け出ようとするのをせき止めるので精一杯だった。
そんな自分も、四時間目の終わりが見えてくる頃には再び体がギラつきだす。
——チャイムはまだか。いつ鳴るんだ。たまには早く鳴ってもいいんだぞ。
「早くは鳴らないでしょ」
と、ツッコミを入れてきたのは隣の席のメガネ。
それに対し、正面を向いたまま、
「だよな。後でノート貸してくれ」
と言えば、メガネは人差し指で自分のトレードマークに触れながら「えぇ?」と困惑していた。
「だって、起きてただろ?」
「心ここにあらずだから」
チャイムに備えて体を小刻みに揺らし、体のエンジンを暖める。この準備運動が、運動不足のメガネには貧乏ゆすりに見えるらしい。
「何しに学校に来てんだよ」
「昼飯を買いに来てる」
「お前……」
「おっと」
ジョークで言ったつもりが、思いの外語気が強くなってしまった。
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