情景260【微睡みながら進みゆく】
昼下がりに雨が降っていた。本格的に降り出す前にと、小走りで大博通りを抜ぬける。博多口から駅へ潜り込んでそそくさと改札をくぐり、門司まで北上する電車に乗った。
車内はクロスシートで、乗客もほとんどいない時間帯だったからちょっとトクした気分になる。ふたりがけのシートの通路側にかばんをドサッと置いて窓際に腰掛けた。座ればシートにおしりが深く沈み込む。柔らかめのシート。体重をかければじわじわと座席に吸い込まれていくような感じで妙に馴染む。肘をついて顎を手のひらに置き、窓の外の灰色がかった空模様を眺めていた。
時折、窓にピッと線のような濡れ跡が走る。
雨が水滴の筋となって、真横に、斜めに、下から切り上げるように、幾つもの跡を車体の窓に残していた。
「これが、ウォーターカッターってやつ」
なんて、適当なことを言ってみる。
しとしとと雨が降るさなか、電車は濡れたレールを噛んで走っていた。
タタタン、タタタン。
音は規則的で、腰掛ける自分は小刻みに揺れて、走行音に耳を傾けていれば、しだいに眠くなってくる。
自分は電車が進む方向を向いて座っていた。席についたたまま、うとうとと浅い眠りに入りながら、それでも雨の中先へ先へと進んでいけるのは、考えてみればゼータクなことなのかもね。
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