情景259【朝の感度】

 私は感度がイマイチ。特に、朝は。

 枕元で甲高かんだかいだけの無機質な機械音が断続的に鳴る。耳に直撃を受ける私は、起ききれないままスマートフォンの電源ボタンを押し、安堵してまた眠り始めた。

 でも、そのすぐ後に、

「……こんにゃろ」

 また音が鳴り出す。

 もう一度消した。それでもまた鳴る。懲りずに消す。消すついでに時間を見た。朝の五時半。

「余裕じゃん」

 このせっかちアラートめ。

 昨夜の自分が仕掛けた二度寝の罠にまんまとハマっている。

 低血圧でアタマが重いと、そのしんどさを枕に押し付けつつ、また深い眠りに落ちようと思った。

 ——毛布と布団のぬくぬくにはあらがえんし。

 しだいにぼうっとしてきて、意識が暗く深い眠りのところまで落ちてきた感触をつかむ……。

 また、スマートフォンが喚いた。

 カッと両目を開く。

「どっせい!」

 体半分起き上がり、スマートフォンを掴んで投げようと思ったが、さすがにそれはできなかった。空で手をぷるぷる震わせただけで、力なく枕にスマートフォンを落とす。

「……」

 ドサッと、大の字になって仰向けに寝転がった。スマートフォンを持ち上げてカオの前に持ってくる。

「君、感度いいね」

 あと、おはよう。

 その返事と言わんばかりに、手をすりぬけて顔面に落っこちてきた。抜け目のない仕事ぶりだよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る