情景255【連休のはじめは雨】
連休のはじめの日は雨。
雨粒が風に乗って家の壁や窓にうちつけられ、続けざまにパラパラパラと音を立てている。家の中にいるとその音がよく響いた。かえって部屋の中の静けさを引き立てる。
「……」
手に持っていた白いカップをテーブルに置くと、カタンと音を立てた。そんな些細な音が耳を衝いてくるくらいには大人しい午前中の空気。置いた拍子に紅茶の表面がゆらめいて、さっきまで映っていた半透明の自分の顔が掻き消える。
雨の音が気になって窓のそばに寄った。窓にうっすら反射する自分を見たとき、その顔を打つように大粒の雨が窓を叩いてきた。音を立てて潰れた雨粒のアトが、窓が映す外の様子をところどころにじませる。
窓に触れた。人差し指にひんやりと冷たい感触がくっつく。そっと離すと、窓に指紋が残った。
「つめた……」
触れたところに、そっと息を吹きかけてみる。
息が白むことはない。その代わり、窓に小さな白い円が広がった。指紋のアトがくっきり浮き出て、そしてそれはすぐに消える。
じきに立夏。土を潤して芽吹かせる雨の降るころ。
この雨が止めば、その先は夏。
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