情景250【背が高い雲】
冬から春にかけては、横に広い雲を見ていた気がする。
それなのに、気がつくと背が高い雲を見上げるようになっていた。
よく晴れていたとしても、外の肌寒さはまだ抜けきれない。午前中、晴天に恵まれたのはなによりだったが、街の空気はどこか冷めていた。夜冷えした空気が街の底に溜まったままでいるのだろう。同棲している相方と一緒に、近所で朝のパンを買った帰りは、なんとなく両手をさすりながら日焼けの心配をするという妙な按配だった。うなじに風が触れたあと、朝日の熱がじんわりと広がる。
「
陽光の薄白い筋に引かれて中空を見上げた。
空模様が衣替えしている。
「でっけー雲……」
「もうそんな季節か」
相方も、茶色のパン袋を抱えたまま眺めていた。
横に薄いハムみたいにべったり伸びた白雲とは違う。白煙がもくもくと天高く伸びて膨らんでいく、そんな雲が青空に立ちふさがっていた。
「積乱雲ってやつ」
「え、それを言うなら龍の巣でしょ」
もしくは入道雲と言うと、相方はハッと軽く鼻で笑い、
「だったら、あの雲の向こうにはきっと天空の城が——」
私は「ああ、ごめん」と片手をひらりと振って答えた。
「そういうアニメネタは詳しくないんで」
「うそつけ」
サクッとツッコミをもらう。
「——ともあれ、じきに夏が見えてくるかね」
「地上はまだ、夏は遠しって感じだけど」
晴れ渡る午前中、夜風が残した空気の余波を感じていた。
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