情景248【海風にふれて書きふける】

 海沿いの宿で胡座あぐらして、文机ふみづくえに散らばる白紙の原稿用紙をにらんでいたら、いくらもしないうちに足の裏がピリピリしてきた。当然、睨んだところで文字が浮かび上がるわけもなく、

「手クセで書いてみるか」

 観念してそうつぶやき、時事などをかいつまんで繋いだだけの随筆らしきものをつづりはじめる。ペンを走らせれば、自然と体がこの書くための場に馴染んでいくだろうと期待した。

 文机とペンと原稿用紙と、畳に座布団を敷いて胡座する自分。窓からは海に乗ってやってきた砂浜の風がなだらかな透明の坂を下るように自分のところまで外の匂いを運んでくる。聴覚や嗅覚が鋭敏になっていくのを感じつつ、目の前の原稿用紙に意識を傾けていた。

 ——おさまりがよくなったな。

 あとは、時を忘れて書くだけ。

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