情景247【海沿いの宿】

 離島にやってきて、海沿いの民宿で一泊することにした。

 砂浜を横目に引き戸を開けて暖簾をくぐる。二階の大きな窓から外を見ればちょうど島に波を寄せる海を一望できそうだ。

「これはこれは……」

 奥へ立ち入るほど時を遡れそうな、そんな類の古びの空気漂う宿だった。踏めばキィと鳴る廊下を渡り、階段を上がって十畳ほどの畳の間に通される。窓のそばに据えられた文机のあたりに荷を放って座布団を敷き、胡座をかいた。

 机に白紙の原稿用紙をばらまく。

 それからペンを取り、来週には新聞社に寄稿されているであろう原稿用紙を睨んだ。……が、ちっともペンが進まない。

「弱ったなこれは……」

 文机に肘をつき、手のひらにあごを沈めながら、フンと鼻を鳴らした。開けた窓から晴天の光の筋が幾らか、部屋に射し込んでくる。

 風が薄い窓ガラスを打ったのか、窓がカタンと音を立てた。木の枠に薄いガラスをはめただけの古ぼけた窓は、時折外の風を受けてカタカタと鳴る。その音につられ、首を伸ばして窓の向こうに見える海のゆらめきを眺めた。

「ここには奥行きがあるな」

 海は水平線まで途切れずに続いている。

 それが水平線で晴れていた中空と合わさり、自分を気を引いているように思えた。

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