情景245【二度寝の朝】

 網戸越しに風が吹き入り、窓の脇でカーテンが小さくなびいている。朝陽あさひが床に陽だまりをつくり、それがしだいに伸びてきて、私の寝そべるベッドのところにまで触れてきた。

「——涼しい」

 私は二度寝をしていた。

 今朝、思いの外早く目が覚めて、寝ぼけたまま外の空気を入れようと窓を開けた。……そしてそのままもう一度ベッドに寝転がってしまい、今に至っている。

 うつぶせのまま、私はS極でベッドがN極。とりわけ私の頬は枕にしつこくはりついて離れないでいた。網戸越しのベランダ。視界にちらつくまぶしさが私の目を覚ましていく——。

 そんな折、スマートフォンが振動して唸った。画面に出たスケジュールのToDoには『バイト』の三文字。

 ……は? バイト?

 一瞬、烈しい動悸がして飛び跳ねるようにベッドから起き上がった。

「え、なんで! ウソ、今日出勤だっけ!」

 急いで支度しようと片膝がベッドから抜け出たとき、記憶が私の後ろ髪を引いてきて体の動きをピタリと止める。

「……ああ。そっか」

 先週、新しいコが入ったから今日は休みになったんだった。

 安堵して急に肩の力が抜けてしまう。ため息がでて、少しまぶたが重くなった。

「……うん。よし」

 もう一度寝てやる。

 ふいにそよいできた風が額に触れた。朝陽も風も、たぶん私のさらなる二度寝を歓迎してくれているのだろう。そう思うことにして、もう一度仰向あおむけになり、ゆっくりと深く息を吸い込んだ。

 息を吐いた先に、白い天井が見える。

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