情景241【ひだまり公園】

 咲き並ぶチューリップをまじまじと眺めたのなんて、いったいどれだけぶりだろう。四月を前にして、公園の花壇は茶色の土くれに草の緑を敷き広げ、球根から芽吹き赤や白の花をこうべにつけていた。この時期は黄砂まじりのそよ風がふくものだから、視界は薄らぼんやりと白いオーバーレイがかかり、頭の赤や白をささやかにゆらめかせている。

「……アタマからっぽになるね」

 少し疲れていたのかもしれない。通り掛かるひとも、過ぎ去っていく風のも、今はさして気にならなかった。公園のベンチに腰掛け、足を組み顎を手のひらに乗せ、ただ前の方に視線をやる。カオもムスッとした表情をしていそうだ。表情筋が愛想を作ってくれない。

「——んっ」

 右目の端で光の点がちらつき、一瞬目を細めた。

 それから、エメラルドグリーンのゴムボールがこちらに向かって転々と跳ね、足元に転がり込む。文字通りてんてんと軽く弾む音を出していた。

 ちょっと目を見開いてしまい、キョトンとしていたところに女の子が小走りでボールを追ってやってくる。持ち主だろうか。まさかひとり? 親御さんは一緒じゃないのかな。そんな馬鹿な。このご時世だしすぐに飛んでくるだろう。

 一方その子は、足を組んでいた私を見てちょっと身構えている。

「……」

 私は仕方なく屈んでそのボールを両手でつかみ、

「はーい! どうぞっ!」

 気がつけば凝り固まっていた表情は緩み、愛嬌をめいっぱい振りまいていた。ボールをポンと渡すと、女の子は足取り軽やかに去っていく。

「……つい出ちゃうんだよねぇ」

 ひとりになってそうひとりごちる。私がクールを気取ろうったってね。

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