情景236【けだるい静けさ】
いやに静かで、傘を差すまでもない程度の霧雨が着慣れない黒のジャケットにまとわりつく。ジトッとした湿っぽい空気に包まれる中、会館を出て玄関に待機していたバスに乗り込んだ。
「……なんか肩が凝るシートだ」
背中も妙にしっくりこない。古いのか新しいのかもよくわからなかった。
——このシートで、何人のひとを運んだのだろう。
バスの中は時間の在り様があやふやで、どうにもすわりがよくない。私専用のシートではないから仕方ないけれども。
少しして、会館から黒っぽい装束に身を包んだ人が続々と表に出てくる。そのうち数人がこちらのバスに乗ってきた。
おばあちゃんに、叔父と叔母。私の両親と、まだ三つになったばかりの従姉妹。みんな黒と白のきちんとした服に身を包んでいる。
誰かが淡々となにか言うと、運転手さんが無機質な機械装置のように粛々とエンジンを起こした。
——けだるげに見えるのは、私が気もそぞろになっているから?
そんなことを思いつつ、ぼんやりと前方を眺めている。道沿いの海はうわっつらに曇天の空模様を映し、水面は冴えない灰色のまま、なだらかに広がっていた。
親戚一同、黙したまま曇天の下で火葬場へ向かっていく。
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