情景234【乳白色のレンガ】

 クッキー? 否、これはシュガーアンドバター。

 糖と脂肪が調和するカロリー爆弾を、「クッキー」なんてかわいいネーミングで包み、私をまんまととりこにしたヤツをどうにかしてちゅうしてやりたい。


 今日も今日とて市販のクッキーをむさぼる私に母が言った。

「実際に作ってみれば太る理由もよくわかるわよ」

 言うほど太ってないです。ちょっと太ったけど。


 そうして、翌日にはしばらくご無沙汰だったレンジのオーブン機能が唸っていた。ご飯時でもないのに台所に立ち、生地をつくり、冷蔵庫で寝かせている間はスマートフォンをいじる。ラップに包まれた生地をめん棒で伸ばして型を取り、オーブンに突っ込んだ。

 母の言葉を最初に思い出したのは、出だしのバターと砂糖を混ぜたとき。レシピ通りに砂糖とバターを用意してみれば、目がパチっと開いて、

「マジかよ。こんなに使うの?」

 手が止まる。

 バターという名のレンガに砂糖の滝を浴びせる自分がいた。


 クッキー生地が焼けて漂う香ばしい匂いが、私の鼻をくすぐりだす。自家製クッキーの完成は間もなくで、居間の空気がゆったりと穏やかなものへと移り変わっていった。十五分ほど経ったところで、両手に鍋つかみミトンを着けてオーブンから取り出す。

 丸い形をした定番のクッキー。整形した円のふちがうっすら茶色くてなんとも食欲をそそる。そしてなによりこの香り——!

 かじればサクリと音を出した。舌の上でホロリと、甘みを連れて溶けていくように味わいが広がっていく。連れ添いに紅茶を用意して、たまには菓子作りも悪くないと思いながら昼下がりを過ごしていた。


 カラになった皿が残され、ここで母の言葉を思い出す。

「私、あのバターのレンガをまるまる食べてしまったのか……」

 自分の体に残った甘い感触が、否応なしに実感をもたらしてくれる。

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