情景233【道ひとつ挟んだ向こう】
はじめての道が好きだ。
用事で家と目的地とを行き来する道すがら、ちょっと脇道に入ったり、普段は登らない坂道を登ってみたりする。
——なぜ、と言われても、習性としか言いようがない。
強いて理由をあげるなら、坂道を登った先の景色には常に興味があるし、登ってから改めて来た道を振り返ってみれば、奥へ下へと細くなる坂道を起点にして広がる街並みを眺めて清々しい気持ちに浸ることができる、といったところかな。
幼い頃からそうした寄り道を繰り返すたびに、行動がいつしか自分の習性として身の内に刻まれていた。
今は、ふたりで道を歩いている。ふたりで大通りからちょっと一本、脇道に入ったとき、相方が言った。
「静かだよね。ここ」
静か?
「うん。ちょっと先に出たら、車がゴウンゴウン唸るうるさい道に出るじゃない」
言われてみたら、そうかも。
すると、相方はこちらの方を見て笑いながら、
「その静けさに浸るのが、好きなんじゃない」
と言って、また淡々と歩き出す。
……そうかもしれないね。
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