情景224【吸いついて消える白】

 冬の寒さもだいぶ落ち着いたと思いきや、いきなりまた厳冬期がやってきた。目覚めたときの足の冷えでそれを即座に察してしまう。

「そと出たくねぇ」

 ベッドの上で薄桃色の布団に巻きついたまま、眠気を振り切れずにいる声の調子はほんのり情けなくて柔らかい。

 とはいえ、いつまでもそう言ってられない。無造作に起き上がり、機械的に朝のルーティン通りに体が動く。気がつけば外行きの様相でコートに袖を通し、自宅を出発していた。


 昨日で冬は終わったと、勝手に思い込んでいた自分。そんな自分だから、外の様子を確かめずに家を出た自分は驚いてしまう。玄関の自動ドアが開いた瞬間、冷めた白い空気に包まれる景色が眼前に飛び込んできた。

「え、また積もるの?」

 重ための雪が緩やかな風に巻かれて屋根や歩道に白い色をつけていた。この地域だと、せいぜい積雪は年に一度。そんな固定観念が自分の中にある。自分のそばをシルバーのファミリーカーが通り過ぎる。……おそるおそる氷の上を踏むようにして。

 歩けば雪が服や手の甲について残る。手の甲を顔の前に持っていくと、そこにまた雪が乗った。そしてそれは、すぐに手の上で消える。さっき服についたはずの雪も服に吸われて消えていた。そこにまた違う雪が乗る。

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