情景222【待ち合わせ】
近所のドーナツ屋が改装してカフェスペースを広くしたんだって、それをダシにデートの約束をこぎつけられた。会ってせいぜい二時間もしないくらいの予定のために、同じくらいの時間をかけて支度する自分のタイムパフォーマンスの微妙さはいかがなものか。
鏡の前で目をぱっちりさせて化粧を済ませ、
「まったくもう。前日とかいきなりすぎ」
肩を竦めたつもりが、自分の声の調子は思いのほかご機嫌らしい。
「会う約束は三日前までにってねェ」
と、ひとりごちれば、
「仕事の打ち合わせかっての」
同居人の妹が鼻で笑う。そんな妹を置いてさらっと外へ出た。もうマフラーはいらないよね。
自宅と待ち合わせ場所の間にあった景色は淡々とそこに置き去りにした。電車を降りて階段を上り下りして、駅のホームを抜ける。街場に出た途端、白い陽光と風が出迎えにきてくれた。耳元にそっと触れる冷めた感触と、頬のうわっつらにうっすら残る陽光の生暖かい感触。
休日の賑わい。喧騒と人混み。人と人が行き交いながらも視線が交差しない大通り。——その中で。
私とあいつは目が合って、同じタイミングで手を振った。
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