情景220【遠出と葛根湯】
訪ねた先で、冬山に根付く宿に二泊ほどしたあと、遠征の疲れがどっと出て、部屋から出られない日があった。
曇り空のうすぼんやり明るい昼日中、すりガラスの窓を少しあける。外に向けて吐いた息は冬空にさっと浚われた。
視界を受けて脳みそが描出するイメージがいつもより冴えない。積雪に立ち並ぶ木々はすっかり冬に枯れ葉をもがれたありさまだったが、それを眺めたのと同時に脳内ではもうひとつ、木々が赤や黄などおおげさに黄葉する様相がよぎっていた。
絶景と評判の露天風呂も脳裏によぎったけれど、
「——今日はやめておこうね」
と、独りごちるようにして自分に言い聞かせる。
一枚余計に厚く着て、ベッドに背中から倒れ込んだ。目についた天井を眺めたまま、深く息を吸って、糸を吐くように細く息を吐く。
それから上体を起こし、気休めに手持ちの葛根湯の顆粒を口に流し込む。口内で苦味を堪能しながら水で胃に流し込み、あらためて横になった。
額に手の甲をあて、いつもよりじんわり温もっている感触をつかみつつ、呟く。
「にっが……」
しっかりはっきり苦いんだけど、これはこれできらいじゃない。
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