情景211【お昼どきのちょっと前】

 玄関を出て、雨に気づいて傘を取りに戻った。飾り気のない透明のビニール傘を手に取ってアスファルトの舗装路に出ると、雨がすでに収まりかけていたことに気づく。

「持ったままでいいか……」

 近場のそば屋に昼ごはんを食べに行くだけ。それでも、また降り出すとも限らないから持っていく。たまに裾や手の甲に乗る雨粒のために傘を差す気にはなれないけれど。

 薄鈍びた曇り空の下で、雨音も鳴りやみかけていたアスファルトの上。冬の冷めた空気も和らいでいた。

「もう少し薄着でもよかったか……」

 ダウンのファスナーを少し降ろす。外に漂っている冷気は雨による湿り気を十分に吸っていた。

 このくらいの冷えこみなら、ゼンゼン平気なのにね。

 なんてことを考えるうちに、近所のそば屋が見えてくる。今日は温かいやつを頼むか。

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