情景216【教室の窓際の席】

 少し、眠気ざしてきた。

 教室のやや後方。窓際の席で学校机に肘をついて外を眺めている。しばらくそうして居ると、妙にのどかな心持になって欠伸あくびをしそうになった。

 教室の窓は家のそれよりも大きくてずらりと壁際に並ぶ。外からの光がしっかりと入ってきていた。光を浴びたカーテンや机椅子、床や壁など至る処から漂う古びの匂いが、長い時間の経過を感じさせる。公立の学校とはえてしてそういうものなのだろう。

 昼下がりの陽光を浴びながらその雰囲気に浸っているうちに、眠気を受け入れたい気分になってきた。しだいに周囲の同級生が雑談に興じて賑わう音が弱まっていく——。

 このまま、ひと眠りするかな。

 そのとき、遠くで白木の引き戸が敷居を引きずる音がする。


 担任が現れて終礼に入った。おかげで目は覚めたものの、変わらずそちらには気もそぞろで、少しずつオレンジがかっていく陽の色が気になりだす。

 ちょっとだけ窓を開けてみた。隙間から、思っていたよりもぬるめの風がやんわりと流れてくる。鼻で外の匂いをゆっくりと嗅いだ。

「……まだ春ってほどじゃないな」

 それでも浸りすぎて、あやうく自分だけ帰りの挨拶をし損ねるところだった。

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