情景201【雪上に響く音】

 外気温マイナス九度。

 一面が雪の、白くだだっ広い景色はとっくの昔に見飽きていた。

 自分の突っ立つ地面から真っすぐひたすら突き抜けた道の奥には、連峰の薄黒い山々の稜線があって、それが空を地面を区切っている。山の尾根には雪の輝く白が乗っていた。

「年末年始は荒れに荒れたなー……」

 三が日を終えて天候が落ち着き、スカッと晴れた空模様を見上げながら、日課の雪かきに億劫さを感じる自分の身体。

 右を見て、左に向いて、ついでに後ろを振り返る。

 雪しかねぇ。

「……ったく」

 九州に住んでいる彼女の口癖が、耳に張り付くような音で響いた。

「雪が降ると、テンションが上がるのよね」

 まるで共感できない。

 こちらにとって、雪は日常であってサプライズじゃねぇ。そんなことをぶつくさと独り言ちながら、スノーダンプに寄り掛かって片手で腰を押えていた。


 そんなとき、ドドドドドと地面を打ち付ける鈍い音が響き渡る。つられて見ると、三、四頭の馬が雪にまみれてはしゃいでいた。除雪して作ったコースを群れて走る馬たちの蹄の音が、しだいに青空に向かって放つ爽快な音へと変わっていく。

「元気だなー、あいつら」

 その馬蹄音を引き連れて、自分のそばを勢いよく走り去っていった。馬たちはあっという間に遠くまで行ったが、生き物の匂いを纏う風と雪の粉が舞い、余韻をこの場に残している。

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