情景199【元日の風気】
元旦の朝は早くて、そしてあっという間に過ぎて行く。
正月料理の支度を手伝い、親戚を迎え、通り一遍飲んで話した。午後が近づくにつれて、時間の流れが緩やかになっていく。
その気配を感じ取ってから、窓の外に視線をやった。
そして、
「散歩してくる」
と誰ともなしに言い、さらっと外に出る。ちょっとした腹ごなしも兼ねて。
往来は空からの陽光をふんだんに浴びて空気も爽やかだったけど、ひと気は絶えていて、脇道の雑草を撫でる風に目をやってしまうほどにひそやかな場になっていた。
風の鳴る音を拾ってしまう静けさの中にあって、陽の高く晴れながらも冷ややかな、物言わぬ道をゆく。近所のひとらは今ごろ、それぞれの家の中で盛り上がっているのだろう。
自分は、元日に漂うこの静かな晴れの空気が好きで、元旦を迎える度に隙を見て外を出歩くひとになっていた。
空っぽの駐車場に辻風が巻いて、枯れ葉が踊っている。
川を見下ろして耳を澄まして、普段は聴かない音を聴いてみた。
「……」
時折、無言でスマートフォンに来るメッセージの返事だけを打つ。
——もう少し先まで歩くか。
空気はそれなりに冷たいけれど、天頂は青く晴れ渡っていた。太陽は熱を忘れたように白い。ただ、陽ざしは自分の立つ地べたまで降ってきていて、天から地まで一貫する風気を感じられた。
山の緑と空の青の重なる地平線の上あたりで、木綿のような白雲が気持ちよさそうに流れていく。
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