情景197【篠突く雨の夜】
外に出るまで、雨が降っていたことに気づいていなかった。
すぐに踵を返して傘を取りに戻る。玄関の隅でちぢこまっていたビニール傘を手にとってもう一度ドアを開ければ、外の空気がもういちど私を出迎えた。
「あっ。マフラー……」
もういいか。
そういえば巻き忘れたなと、コートを羽織ってできた胸元隙間を人差し指でそっと押さえる。視線を前に向ければ、眼前に伸びた空間は、
さらに、雨。
ただ、音はない。
雨粒もはっきりとは見えない。
空気を伝い、降りしきって場の湿る感じが伝わってくる。
ビニール傘の柄にあるボタンを押した。角張った半透明の円がばさっと広がる。傘のつゆ先……先端を空に向けて歩いた。傘が、雨露を受け止める音を拾う。時折車道を突っ切っていくなにがしかに雨水をひっかけられないよう気をつけながら歩く。
角を曲がると、歩道の先にある街灯の明かりが点々と地べたを照らしていた。
街灯の下を通る雨が光を浴びて散らし、ちょうど三角形の光が並ぶような塩梅。
「……ふぅん」
嫌いじゃないかも。
それは暗がりの中に降りた、光色の傘のようだった。
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