情景195【ささめく雨】

 一夜明けて、彼の家で午前中をゆっくりと過ごしてから、お昼は外へ食べに行く。そのあと、腹ごなしに軽く散歩することにして、曇り空の下、近くの公園を歩いた。

 公園に伸びる太い道の両脇には木々が並んでいる。葉は枯れ落ちて土に吸い付くように、静かに寝転がっていた。木々は北風に吹かれている。

 隣でスマートフォンの画面をしげしげと眺める彼が言うには、

「夕方ごろ、ちょっと降るらしいよ。雨雲レーダー曰く」

 だそうだ。

「そんなに詳しくわかるんだ」

「うん。科学の力ってスゲー……ってやつ」

 公園はろくに人がいなくて、曇天を仰いで深閑とした空気に包まれている。私たちは音のない道を歩いた。

 あるとしたら、私と彼の足音だけ。ときどき風に吹かれる枯れ葉が、渇いた土の上で引きずられる。そんな音すら耳に届いてくる。


 しばらくすると、

「——え、もう来た?」

「かも」

 雨粒が頬に触れた。

「思ったより早くない?」

「ま、このくらいなら平気でしょ」

 彼はマフラーにあごをすぼめ、手のひらを空にかざしながら笑って言った。

 そのすぐあとに、


 ぱらぱらぱら……。

 と、木々が並ぶ両脇から雨を知らせる音が鳴りだす。


 雨が木々や枯れ葉に触れたのだろう。

 降雨を教えてくれる音が、少し遅れてやってきた。

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