情景194【朝、土鍋で炊飯】

 土鍋で米を炊くようになって、料理の火加減にいっそう気を払うようになった。

 慣れてしまえば、早いし楽だし、土鍋が噴いてきたときにちょっと屈んでほたる火まで調整しているときとか、

「ああ、なんか料理してるなァ、自分」

 なんて思えてしまう。

 土鍋のそばでそっと耳を澄ますと、小さくコトコトと噴く音が鳴っていた。熱が伝わってくる。しばらくそのままにして炊きあがる間、土鍋の隣で沸騰し始めていた雪平鍋の方をやってしまおう。

「アクと戦うなんとやら……」

 おたまを手に、火の通った豚肉やネギ、里芋や人参やらを避けつつ灰汁をすくい、それから味噌を溶かした。

 雪平鍋から沸く気泡が具材を通り抜けて湯気となり、鍋を見る自分にむわっと寄る。ぐつぐつと煮る音が、隣で大人しく炊かれている土鍋の音をさらに静やかなものにしている。ちらっと冷蔵庫の方を見て、

「あとは、漬物でも添えておくか」

 もしくは、卵を焼いてもいいかな。台所から発する朝の食卓の匂いが部屋に満ちていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る