情景190【氷の張る上に】

 休日の朝。昨夜までちらついていた粉雪は晴れの日差しに追い払われたみたい。

 近所のパン屋に昼までしのげる分の食糧を調達しに行こうと、淡い空色のコートと白いマフラーを着込んで外に出る。

 吐いた息が白くなった。それは瞬く前に消えた。

 ——が、それはそれとして。

「あーもう、さむッ……」

 どうしようもなく、言葉ひとつひとつの音が固い。

 窓越しの晴れ景色は見掛け倒しもいいところだった。晴れは晴れだが、空気がとんでもなく冷めていて、夜の冷えに未だ後ろ髪をひかれているらしく、静かに晴れる朝だった。

 パン屋までの道すがら、角を曲がって太い路に出る。昨日までは湿って滲むだけだったアスファルトのくぼみにごく薄い氷が張っていた。昨夜、きっと薄雪が降ったのだろう。靴のかかとで削るように踏めば、ぞりっと鈍い音が鳴った。


 薄氷のうえに木の葉が散っている。散ったあとに、降ったのかも。

 葉は氷のうえで微動だにせず、ただそこで佇んでいた。

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