情景189【大濠公園】

 夕の静まる空間に粉雪を散らす風が、一瞬弱まった。ゆるくたなびいていたベージュのコートの襟がしんなりとなって静止する。

 ——厚手のヤツにしとけばよかったな。

 冷めて張り付く空気を吸って息を吐いた。私は今、休日の夕方に公園を歩いている。

 いま歩いている道は、街に大きく溜まる楕円の池を、ぐるりと囲む外縁のうえ。ジョギングコースとしても親しまれているけれど、さすがにこの時期の夕方——粉雪が散る中を走り込む人の姿は少ない。


 池のほとりに立ち止まって広がる水面みなもを横目で眺めたとき、目の前に溜まる水はならされた暗い鏡のようだった。風が止み、音は潜まり、空は白と灰の間でゆらめきながらたまに夕陽の茜色が水面に散りながら伸びる。


 ここはかつて、草香江くさがえという入り江だった。そばにはお城の跡。時の偉い人は入り江をちょっと埋め立てて、平山城のそばに伸びる外濠にしたらしい。


 水面に木の葉が散った。波紋が揺らめいて均された鏡の上を、滑るように浮かんでいる。

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