情景188【居間の石油ストーブ】

 居間にある一台の石油ストーブ。

 この時期になると、こいつが頼もしくて仕方がない。

 一日の仕事を終えて帰宅すると、すでにストーブは芯に赤い灯火を纏って、静かに部屋を暖めていた。

 その様子を尻目に自室へ。空調の入っていない暗い部屋で、スーツを脱いでハンガーにかけ、部屋着に着替えてからストーブを据えた居間に戻る。暖まった部屋の空気に、つい気が緩んだ。

 ストーブは、たまにパチリと音を鳴らす。近くを通りがかると漂う灯油の匂いが、乾いた冬の空気によく馴染んで心地よかった。

 ひっそりとした夜だった。


 ストーブの上にほのかな湯気があがっている。取っ手のついた鍋にたまる水が、小さな気泡をあげて唸っていた。床に手をついたまま鍋の中を覗くと、そこに二本の白いお銚子が立っている。

「——熱燗?」

 見下ろしながらそう呟くと、背後で革張りのソファに深く座っていた父が、

「お前も呑まんか」

 と、言ってきた。

 テーブルには鮪と蛸の刺身とイカソーメン。隣に椎茸と里芋の煮つけ。振り返ってお銚子の立つ鍋をひとしきり眺めてから、冷蔵庫を方を見る。

 それから、

「先にビールで慣らさせて」

 と言えば、父は肩で笑う。そして年齢を忘れたかのように軽々と立ち上がり、二人分の缶ビールとお猪口を持ってきた。

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