情景187【冬、玄関を開けたら】

 学校から家へと辿り着いたころには、もうすっかり日が暮れてしまっていた。学校と家とをつなぐ下校の道は透き通った夜の底に音もなく沈む。瞬く間に暗くなった。

 門扉を開き、冬の乾いた道を切って走った自転車を奥に置き、そしてそのまま玄関に向かう。


 玄関を開けて家に内に入ると、暖房の行き届いた屋内の空気が、外の空気の中で冷まされた私の身を剥がすように温める。耳たぶの付け根にぴりっとした感触が走ってから、じわりと熱が通る。そんな感じ。

「ただいま」

 誰ともなしに言えば、誰かが返してくれる。

 台所の方から母の声で、

「おかえり」

 居間の方から父の声で、

「おーう」

「……」

 父さん、また飲んでるな。

 靴を脱ぎ廊下の半ばを過ぎたあたりで、母が「先に手を洗いなさい」と台所で火にかけたり水を出したりする音を出しながら声をかけた。

 先に鞄を置きたいんだけど。

「ダメ。うがい、手洗い、最初になさい」

「むぅ」

 洗面所で手を洗いながら、口がヘの字になる。

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