情景186【すでにもう帰りたい】

 師走の風が、冷めた無色の棘を勢いよく街中に散らしているのだろうか。

 灰色の街並みに漂う空気も、アスファルトを滑るように吹き抜けていく風も、昨日までとは段違いの肌寒さで家から出た私を迎える。


 ——外に出たばかりなんだけど、すでにものすごく帰りたい。


 鼻先が赤くなっているかもとか、そんなことが気になった。

 駅まではまだ遠い。でも、

「乗ったら乗ったで、電車は密なのよねぇ……」

 ため息が出た。吐く息が白まないのはなぜだろう。風情の前に寒さがやってきて、どうにもこうにも——って言うそばからマフラーの隙間をぬって風が首元に入ってくきた。

 マフラーをぎゅっと首に押しつけて、冷たい空気を押し出すように軽く叩いた。駅が見えてくる。

 その時、白いガードレールを挟んで銀の自転車が一台、そばを通り過ぎた。

 車輪がきらめいて回る軽快な音。風を切っているのは、制服とマフラーに身を包む女の子。

「……若い」

 なんて、言っている場合か。

 せめて大人らしく、背筋くらい伸ばそうか、私よ。



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