情景185【ちょっと肘を曲げて】

 自室の隅に据えた原稿作業用のパソコンデスクで今日の書き物を進めている。

 ちょっと視線を逸らすだけで外の景色を眺められた。それがどうしたと思わなくもないけれど、日がな文章を読みそれから文字を打ち、資料に目を通してメッセージのやり取りをして——文字と格闘し続ける中で外の景色は文字通りのいろどりだった。

 ——ラクだけど、運動不足になりそうなのがな。

 ちょっと立って窓際に寄って、なんならベランダに出て風を浴びればいいものの、いちど作業を始めたら力尽きるまで床に根を張る自分を、私は既に受け入れてしまっている。

 窓の外を見やると、風が思い出したように、枯れ痩せた木々の枝を揺らしていた。かと思えば、陽光をあびて心地よさそうに佇む早咲きの水仙たち。穏やかな空気に包まれていると、外から陽光が差し込んできて手の甲に乗った。

 気持ちが安らいで、私はパソコンを閉じる。

 ちょっと肘を曲げて、銀の天板に肘を乗せて、陽を浴びながら。この部屋の隅でひと眠りしよう。

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