情景183【師走のささやかなこと・午前】

 年内の仕事納めまでの道のりも、だいぶ見えてきたかな。

 そんな思いが脳裏をよぎりながら自分の店の内外を歩き回る。荷物や脚立を担いで外に出るのも一度や二度ではない。商品を詰めた小さなダンボールの山を集荷業者に預けたとき、真白い粉雪がちらつきはじめたことに気づいた。——そんな、商店街の一角。

 この時期は慌ただしい。

 朝は端末を介しての受発注と事務仕事。配達分の受け入れを済ませて店を開いた。

 それから、

「師走らしい飾りつけってなんだろうね」

 と、外に出て脚立の踏み桟に足を掛けて手を伸ばしながら、店の切り盛りを手伝ってくれる妻に尋ねてみる。

 妻はさらりと、

「ホント、なんでしょうね」

 とだけ答え、二の腕をさすりながら早々と店内に戻っていった。


 不器用なりにかじかむ素手で、どうにか店の雰囲気を、師走の忙しくもどこか浮き上がるような空気感に馴染ませようと悪戦苦闘。作業を終えれば、紺の作業エプロンのポケットからメモ帳を取り出して、箇条書きの項目のうち幾つかに消込の横線を赤ペンで入れる。

 ——さて、まだまだやることがたくさんあるな。

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