情景182【師走のささやかなこと】
底冷えする乾いた空気が肌に触れる師走の候。ひとはそれぞれに訪れる年の瀬を、よりよく越せるように思いながら慌ただしく過ごしている。
とある商店街の一角に、クリスマスの雰囲気を演出しようとそこそこに奮闘する商店主とその妻がいた。街の子どもたちが学校を下校する前にと、夫婦ふたり慣れない手つきで自分たちの空間に手を入れている。店内にクリスマスツリーを設置し、店の外に出てモールや電飾を撒いて模様に工夫を凝らそうと、脚立を肩にあちこち奔走していた。店の外で吹きぬける風は、冷たく彼らのうなじを撫でる。襟を立てて肩を寄せた。乾いた手がかじかむ。
その様子を見かけた妻の方が、
「腰をいわさないように」
と声をかけ、夫の方は、
「はいはい。わかっておりますよ」
と、腰を軽くさすり、笑いながら答えた。
しばらくして暮れ出せば、店先の街灯に明かりが点きはじめるだろう。この電飾と、白光で通りを照らす街灯とが交わり、クリスマスの雰囲気を演出してくれるはずだ。
軒先を通りかかる人々は、襟をそばだてて顎を沈め、伏し目がちに冷めきったアスファルトを歩いていた。もれなくコートのポケットから手を出そうとしない。それでも、暮れなずむ中に電飾が灯れば、店の方に視線を向けてくれるやも——。
寒く暗い夜の通りにも、色の温かみ添えてみたいと思った。
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