情景181【田舎の夜の帳】

 日が沈みゆき、夕の空に幕を引こうとする。一日の幕を引いて、田んぼと山に囲まれた田舎の片隅に立つ自分の周りを、夜の濃く深い色に染め上げた。

 背には黒々とした山の稜線。薄暗い目の前には、田んぼの端まで伸びる畦道が伸びている。両脇の田んぼは秋おこしを終えてすっかり耕されていた。


 ポケットに手を突っ込んで、まっすぐ空を見ている。都会から遠く離れた田舎町で、冬の夜は唯々冷めて静々としたものであることを思い知っていた。

 音もなく黒々とした帳が降るように、夜は訪れる。

 先程までの夕闇がウソのよう。


 音が急に消えた。

 聞こえていた喧騒が消え失せる。

 視界は薄暗く頼りないものとなった。

 中空に、星々が輝き出す。


 でも。

 空の匂いを嗅いだときに鼻をつく土の香り。鼻を通り、喉を突き抜け、胃の底に垢抜けない匂いを残すもの。

 それだけは、先程と変わらず私のそばにある。

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