情景177【雲が速い】

 最初に真上を見つめたとき、そらの奥まで視線で突っ切ってしまえそうな、まっさらな青があった。

 この季節が来ると、空の高さを思い知る。つい手を伸ばせばそのまま吸い上げられてしまいそうな、そんな奥行きのある青。風が冷ややかに私の頬を叩いて、視線を前に戻した。

 空と地べたを横一線に分け隔てる凸凹な地平線。中空にはさらさらと流れゆく雲が並んでいる。


 ——雲の足が速いな。


 時の流れはそのままなはず。それなのに、雲だけが早送りされているように思えるほど、雲は早々に横へと流れていく。

 ふと、思い立った。

 もう一度そらを見上げたら、そこには平たく据えられた雲がある。それも一様に横へと流れていた。

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