情景173【木枯らしが掃く】

 空気が乾燥しはじめた。

 テニスコートの外側の白線——ベースラインのスレスレに立ち、ネット越しに構える相手を睨みながらそんなことを思う。

 右手にラケット。左手には黄緑のテニスボール。ボールを軽く握り、指の腹で砂の混じった毛羽フェルトのざらっとした感触をなぞる。


 ——真夏の暑さに比べたら、この空気の方が全然マシね。


 サーブの前に左手で、ボールを二度バウンドさせ、息を深く吸った。その拍子に目を閉じて、長く息を吐く。

 目を開くと、太陽が雲に隠れていた。横から風がコートに流れ混んでくる。風が引き連れてきた枯れ葉が砂地に転がって、カラカラカラと音を立てていた。

 木枯らしがコートを包み始める。


 ——風が強くなる前に、打ってしまえ。


 トスをして視線を上げる。そのままラケットを振り上げ、ボールを叩いて前を向いた。

 味方してよね、風。

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