情景172【看病する兄】

 僕のそばで、カタカタと窓が震えていた。桃色のカーテンはまっすぐ重力に引かれて下に垂れたまま、静かに佇んでいる。

 外は風の吹く夜。暗く静まるくたびれた家の中で、豆電球のスタンドライトに明かりを灯した。ふわっと広まる光が、安静にして眠る妹の頬を照らしてくれる。


 ——僕は今、どんなカオをしているだろうか。


 鏡を見る余裕はなかった。膝の上で握った拳にじわりと汗がにじむ。

 ベッドのそばに寄って妹の様子を伺う。妹は布団をかぶり、暖かくして眠っていた。でも、たまにうなされるようで、そのたびに額や脇に当てたおしぼりを変えてやる。


 元気じゃない妹を見るのは初めてだ。

 医者は風邪だといった。安静にして様子を見るようにと。

 でも、僕は不安で、

「僕、今日ずっと妹についています」

 そう言うと、

「ああ、それはいい。この子も安心だろう」

 ほっと胸をなでおろしながら、医者先生はそう言って家を後にした。


 だから、僕がついているんだ。

 時計の短針が下りきっても眠ったりなんかしない……。


 結局、僕は短針が下って半分を過ぎたくらいのところで眠ってしまった。そんな僕を、起こしたのは妹。先に目覚めていたらしく、けろりとしていた。背に、朝陽が差す。

 それから、

「おなかすいた」

 と、言った。

「……うん、まかしとけ」

 頼りない兄ちゃんでごめんな。

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