情景169【その返事、わりと好き】
デスクの下にベージュのローファーごと足を突っ込んで、私は今日も日々の業務に勤しんでいた。机上はパソコンだらけだからか、室内の空調は行き届いている。少々乾いてはいても寒くはないし熱くもない。外はもう、寒くてコートが欲しいなと思えるくらいの時期に差し掛かったのにね。
「……よし」
作業の手を止め、意味もなくそう言っていた。本当に「よし」なのかはひとまず置いておく。もはや口癖のようなものだから。
そのとき、隣席の同僚男子が背後をするりと通りすぎた。そのまま上司に相談に行っている。
「来週の会議の時間なんですけど——」
「うん」
オフィス内の雑多な音の重なり。無機質な機械音。それらと行き交うひとびとの会話が交じり合って、自分はその中で溶けるようにして粛々と業務を捌いている。
同僚がため息まじりに席に着いた。椅子のキャスターが転がって、腰掛けた拍子にカシャンと鳴る。
もう一度ため息をついた。
「……おつかれ」
「ウィス」
「ウィスって、まァいいけど」
まァいいけど、男子な返事だな。わりと好き。
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