情景166【金網の向こうのピッチ】

 目の前にそり立つ金網が夕陽の光を粒にして弾いていた。

 奥の天然芝の球技場——ピッチには誰もいない。丁寧に整備されている天然芝が、そよぐ風にただ靡いていた。


 不意にゆっくりと手を伸ばす。金網に阻まれる。網に触れ、握りしめる。鉄の冷めた感触と、網の軋む音が肌を通じて自分の身体に伝わってきた。金網の向こうをただ見据え、しばらく立ち尽くしている……。

「変わらないなァ……ここは」

 見渡せる範囲には、ピッチのさらに奥に伸びる遊歩道でウォーキングに興じるジャージのご年配がぽつぽつといる程度。夕焼けに彩られた運動公園は、静かで閑散としている。

 子どもだった頃は、よく仲間とスポーツを楽しむため頻繁にここを訪れていた。当時は自転車一台さえあれば、重い荷物を背負い一時間弱かけて。

 あの頃は、ただサッカーをするためだけに、自転車を漕いでどこまでも走るつもりだった。

 目の前のピッチは、サッカーを楽しんでいたあの時も、サッカーから離れてしまった今も、丹念に設えた天然芝を風に靡かせている。静かに靡いていた。

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