情景164【風に混じる郷愁】
——見えてきた。
今回の目的地のことだ。それは、かつてよく遊びに行っていた運動公園。そばに、天然芝の張り巡らされた空間が据えられている。
手慣れた運転でハンドルを切り、野球場の見える入口から駐車場へと向かった。車の走行音は、県道をなぞっていたときと打って変わって大人しい。だだっ広くガラガラの駐車場でざっとブレーキを踏み、シフトレバーを二段上げた。白線の囲みに車を収め、エンジンを切ってドアを開け、車からゆっくりと降りる。
ドアの外側に指が近づいたとき、パチッと静電気がいたずらをした。
「いっつっ……!」
窓ガラスに手のひらを当てて、警戒ながらドアを閉じる。
——この季節はコレがあるから。
毎度のことながらたまらない。
車から指を離したところで風を感じた。前に向き直したとき、髪が靡いて逆立つ。奥に天然芝の球戯場が見えた。
「やっと、来られたな」
さらに奥にあるのは、空と地表を分け隔てる稜線だけ。
風の匂いに鼻の奥を疼かせる懐かしさが混じっていた。
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