情景162【坪庭に降る寂光】

 近所の公園に植わっていた細い数本の木が、一、二年のうちに緑光と影の重なる茂みをつくるようになっていた。


 ——たかだか一、二年のうちにああなるんだ。


 遠巻きに、スニーカーでアスファルトを踏みしめながら眺める。ただ、それは眺めるだけで、結局公園の土を踏むこともなくその日は終わった。


 そのせいもあってか、帰宅して家の隅にある坪庭とすら呼べないようなせっまい庭を思い出す。ふと思い立ち、坪庭の前で座布団を敷いて、ゆったりと片膝立てて座り、眺めた。

「庭というか、苔プラス竹。山のカケラ……」

 そんな塩梅。だけれど、この坪庭も最初からそうだったわけではない。

 父がこの家を買い、越してきたばかりの頃は何本かの竹が刺さっているだけの坪庭だった。それも数年のうちに小木が育ちはじめ、土に根と種が残っていたのか、実や芽をつけはじめた。

 越して数年。それでこんな風情を纏う。妙に感心してひとり、満足げに頷いた。


 夕に差し掛かる。

 台所から母が、

「晩御飯よ」

「はい」

 庭に横顔を見せた。西日が横から坪庭に差し掛かる。顔はそのまま、目は坪庭のを追う。


 ——寂光じゃっこう


 陽は低く、斜めになって坪庭の片側に光を溜めていた。もう片側は、隠れるように黒々としている。光はすぐに消えた。

 それでも、一瞬の光を目で追い、かすかな昂揚が芽生える。それは、私が夜に寝付くまで、身のうちでまたたいてそこに在り続けていた。

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