情景160【部屋の片隅で、静かに明滅する】

 吸える場所なんて、もうどこにもないから。

 気がつけば自宅の隅にいて、おくちのそばで火を灯すようになった。


 夏を置き去りにし、秋を通り過ぎて、空は行き急ぐように移ろい空気は乾いていく。その在り様をぼんやりと眺めたくて、右の手のひらに紙箱を握り、簡素なライターと灰皿を置く窓際にそっと寄った。


 網戸越しに空を見上げる。視界に垂れてきた前髪の黒を小指でかき分けた。乾いた空気を感じながら、見上げる天頂の高さを思う。

 とすんと、フローリングの床に腰をおろした。

「つめた……」

 この冷え、お尻に直にくるね。


 なんとなくこぢんまりと体育座りをして、ひざを斜めに崩し、手に握るくしゃっとした紙箱の底で床を叩く。ひょこっと顔を出した一本をつまんだ。

「……」

 口にくわえる。


 ——ここはとても静かだと思う。音もずっと遠く感じる。だから。

 

 シュッと灯せば、ジッと鳴った。

 それにじっくり息を通せば、先端で赤い点がささやかに明滅する。

「ふぅ。——うん」

 吹いた煙は薄白くて、そっとふくらみ、そっと消えた。

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