情景158【夜景、見晴らし】
飛行船のプロペラがパラパラと空を刻む音。その音が足元から響くようにして、飛行船の見張り台に立つ僕らの鼓膜に触れてくる。
しんとした夜の空に溶け込みながら、その音が僕らの存在を主張してくれる。中空で夜に囲まれた一隻の飛行船は、エンベロープにガスをつめ、重力に引かれながらも漂うように飛んでいた。
「夜って、一瞬で来るわよね」
「ああ。あっという間にまっくらだ」
同僚の言葉に頷きながら、見通す先に暗闇しかないことを視認している。
空を行く船上の高台で、ふたり。
彼女の方をちらりと見る。夜陰に白む彼女の吐息が空に消えた。
「星がまばゆいわ」
確かに。
「ただ、星空は毎日見てるもんなァ」
「もう……浪漫が欠けちゃってるわね」
じきに見張りの交代が来る。会話のタネの尽きてきたところだった。
そのとき、
「見て、下」
促されて地べたの方に視線をやる。
夜の底に沈んでいたはずの黒々とした大地に一か所、オレンジの光点がゆらめきながら一列になって移ろっていた。
「なんだ、アレ。山火事?」
「松明や篝火かしら。お祭りかもね」
こうして言葉を交わす間も、集った光点は列をなして移動している。それは次第に円となって、静まった地べたに人と集落の在りかを感じさせた。
どこか牧歌的でのんびりとしていて、のどかな灯。
「そっか。下はまだ秋だっけ」
そう言いながら、寒風にあてられてくしゃみをする。
そこに集った火は、触れてみたくなる温かみを感じさせた。
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