情景152【陽が昇る前の雪山】

 山頂はまだまだ遠かった。

 陽が昇る前に目を覚ます。山中に降る冷めた空気は天幕がある程度遮ってくれるけれど、深く青々とした星空の下に在る素肌を剥くような冷え込みすべてを遮断してくれるほどではない。

 天幕から顔を出した。雪中に在る自分がいかにちっぽけかと思う。山は雪風で冷まされて静やかに佇む。遠くの地平線あたりに横一線の薄白い靄のような明かりが広がっていた。じきに朝陽も顔を出してくれるだろう。

「鼻が赤くなってるかな」

 むずむずした感触を覚えて、プシュッと鼻を鳴らすように息を吹き出してから呼吸する。支度をしなければ。


 星々の散る濃紺の天頂を傘にして、ぼんやりと横一線に白い地平線を眺めていた。ささやかに湯を沸かし、白湯で胃を温めてからカロリーメイトを口にする。

 さっそく出発した。雪を踏みしめて唸る音が、自分は山を登っていると教えてくれる。

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