情景149【せめてまだもうちょっとくらい】

 布団をかぶり丸まって眠る私の背中越しに、外の冷めた空気が部屋に侵食してくるのを感じる。消灯した寝室で、締め切るカーテンの奥から染み入るように、冷やされた空気が私の首もとや耳の付け根に触れてきた。


 ——寝させて。


 寝ぼけたまま、私を起こそうとするものにそっぽを向く。

 すると今度は、冷気が私の鼻をつまんだ。寝息の行き来する間で蓄積した埃やチリが、ツンとした感触を弾き連れて私をくすぐる。

 フンッ!

 鼻でひと息鳴らしてこざかしいチリを追い払った。


 今度は愛用のスマートフォンが牙をむく。枕元でくぐもった低い唸りと振動を放ち、絶妙な不愉快さを醸すアラームを鳴らして、私の思考を暗く快適な眠りの底から引き揚げようと企む。目覚める気がない私は無意識下で反射的にスマートフォンを扱いアラームとスヌーズをオフにした。

 そして、ほっとため息をついてからもういちど寝息を深める……。


 ——これであと、二時間寝られる。


 毎朝五時のアラーム。二度寝を味わうためだけに組まれた朝の習慣。

 我ながらしょうもない習慣だと思う。

 でも、これがなかなかクセになっちゃうんだよねぇ。

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