情景143【張り詰める姿への羨み】
専門学校での授業を終えて、バイト先へと走った。
下校前、先生に就職先についての相談をしていたから、学校を出た頃にはすっかり暗くなっていて、走る中で通りがかる何本もの電灯の白い光が目に眩しい。
急ごう。……急がないと。
向かい風が夜陰に紛れて冷たい。指先でそれを感じながら、電灯の白い光を何本も追い越した。
バイト先に着いたとき、職場はすでにお祝いムードに包まれていた。
制作していた作品の最終チェックが終わっていた。ところどころでお疲れ様の声が飛び交っている。
「立ち会えなかったか……」
そこでの自分は、庶務や事務作業メインのアルバイト。それでも僕を見かけたスタッフの方々が僕の腕をひいて、そのお疲れ様の輪に入れてくれた。
背中を叩かれ、支えてくれてありがとうの声をもらい、それはそれで嬉しい。
——だけど。
その輪に加わらず、部屋の隅で椅子に腰掛けていたひとの方に視線が向く。
奥で、くたびれ果てた表情で、額に指を当てて今にも眠りこけそうで、そうして張り詰め続けている人がいた。
今回の制作の中核を担っていたディレクター。未だディスプレイを睨み、やり残しはないかと張り詰め続けている。この軽やかな雰囲気の中で、重く沈みながら。
ディレクターがこちらに気づいた。
「よう。お疲れ」
と、しわがれた声で言ってくれる。
「いえ……。自分なんて」
「自分なんてってコトがあるかよ……。まァ、ささやかだけど、打ち上げ、参加していけよ……」
「……はい」
声が掠れていた。
この緩やかな賑わいの中で、静かにひっそりと張り詰める……そんなこの人を見て、脳裏に血が巡る。
果たして僕は、この人のように本気で仕事をしているか?
どうしてこうも身を投げ出すように、ああも張り詰めて、目の前のことに取り組めるのだろう。あるいは、あの立場がそうさせるのか。
未だ学生の身がはがゆい。
なぜ僕はただ眺めている。
なぜ僕がそこにいないんだ。
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