情景142【掃く音。澄み切る朝のこと】
手に持つ竹箒が、境内の石畳をざらりと擦る音が耳を衝く。
早朝の……まだ夜から片足も脱し切れていない残夜といったところ。空気が冷えてちぢこまっている中を、白い袴を着た自分たちが突っ切り、呼吸をし、境内は少しずつ目覚めていく。
誰も言葉を発することなく、淡々と朝の清掃をしていた。竹箒の枝先で石を掻く音が響く。これも、場を清らかに保つための大切な日課。遠くを見遣ると、東の空がわずかに白みはじめた。
隣で父が、
「
ぽつりと呟く。
「
空の深い藍の色味は、薄らいだ青へと無音で移り変わっていく。空は澄み切っていた。ぴたりと、箒の手を止めてしまう。すると一瞬、音がしんと底に沈んでいくようにして、静けさが覆った。
ふと、門のあたりでバイクのエンジン音が鳴り、郵便受けから束のような塊が底を打つ音がした。
「——ご苦労様です」
聞こえてはいないだろう。それでも、呟いてしまう。
僕らが活動を始める「朝」は、日の出よりも新聞配達よりも早い。
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