情景140【廃線跡を通る】

 最近、陽ざしが目に優しくなった気がする。空気を深く吸ってみたくなるような秋の清風が、私を背後からあっという間に追い抜いていった。風はそのまま私の目の前を、一直線に走っていく。


 まっすぐ、どこまでも。

 目の前で、地平線まで途切れることのなく伸びている、細長いみちを。

 私はいま、かつて線路だった一本の線に立っている。


 そのみちは、かつて田舎の草原をならし、石を寄せて盛り上げた、細長い一本の線だった。それをどこまでも伸ばしに伸ばして、人が広域に行き交う道にする。

 いま、私が立つ石造りの線の両脇は、在りし日の駅のホーム。廃線になったのと同じくして人の気配が途絶え、時が止まってしまった場所。もう少し歩けば古い民家や川に沿っていて線が伸び、もっと行けば田んぼに囲まれた中をく。私を追い抜いた風はそのまま海沿いを通り抜け、さらに奥の山々のそばを突っ切っていくのだろう。


 足もとの地べたに通された一本の線は、かつて人と場所を繋いでいた。

 多くのひと、かさなる影、こだまする声、過ごした時。——そのいくつものかさなりとつらなりを経て、からになった道が目の前に続いている。

 時が止まった場所で、風だけが先を急いでいた。

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