情景138【お化け屋敷のあと。二時間前は幽霊】

 連れの男友達が飲み干したビールをトンと卓に置いて笑う。

「それより、鏡の幽霊の子の方が興味あるね」

「だろうな」

 あのトボトボ歩く俺とカオすら上げない彼女を見て、申し訳なさそうに肩を竦めていた彼女。さすがにそんなギャップを演出してくる幽霊は初めてだった。

「だから」

 と、もろきゅうを齧りながら、

「今度、野郎とリベンジしに行きますって——」

 そんなことを言いかけたとき、女性の店員さんがビールを運んできた。

 毛先だけ茶色の、黒髪がさらりと長いひと。

「お待たせしました、ビールふたつです」

「ありがとうございます」

 と、受け取って、その店員さんと目が合った。

「あれっ?」

 気のせいか?

 最初、俺の視線に気づいてちょっと首を傾げた彼女も、

「あァっ!」

 と叫ぶ。

 もしかして。


「——お化け屋敷の」

 声が重なった。

 お互い、呆気にとられる。


 向かいの席の連れは、

「マジかよ」

 と言いつついかにも楽しそうだった。

「はは……」

 思わずビールをもう一口運びつつ、指の腹でテーブルをそっと撫でた。

 やっぱり、油っぽいな。

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